2022.07.06
こどもの成長に欠かせない自然のつながり#2(公益財団法人 MORIUMIUS 油井元太郎氏)
モリウミアスという名前には、「森と、海と、明日へ」という思いが込められています。正式にはMORIUMIUSと英語で表記しており、明日はus(we)とし、豊かな森と海がつながる環境で、こども達と町の明日をみんなでつくっていこう、というスローガンのような名前となっています。よく「モリウミアスではどんな体験ができるのか?」と聞かれます。自然体験、農業や漁業の体験ができると思っている人が多いのではないかと思います。モリウミアスでは「循環する暮らしの体験」と呼んでおり、こども達が自然の循環を体感し、その循環を人が生み出すことでよりよい自然環境が育まれることを体験から学び、経験としてもらっています。
宮城県の沿岸部雄勝町にある施設は築99年になる木造の元小学校。2002年に廃校となってから卒業生の親族によって石巻市から取得し、大事に守られていました。日本でも有数の硯の産地である雄勝町。その硯石を屋根に葺いた独特の雰囲気を持つこの元校舎。2013年から約2年間、5000人ものボランティアや住民、建築家や職人と一緒に改修して2015年にオープンしました。教室にオリジナルの2段ベッドを入れて泊まれる空間にしたり、調理や食事ができるダイニングをつくったり、図書室だった部屋は露天風呂に生まれ変わり多くのこども達に利用されています。木造の温かさを残しながら、冬の寒さにも耐えられるように断熱や光をたくさん取り込む工夫もしています。廊下の壁は撤去し、縁側のような半野外スペースでより自然を感じられるようになっています。また、前回のブログでも書いたように生ゴミは堆肥にし、お湯や暖房は裏山から間伐した木や段ボールなどをボイラーで燃やして熱源としています。さらに施設から出る排水は微生物の力で浄化するバイオジオフィルターを通し、水生生物・植物が生きるビオトープや水田で活用しています。
体験場所としてこども達が駆け回る森や田畑、海はフィールドと呼んでいます。食材や燃料を自ら集めて、料理をして食べる。残った食事や食材は堆肥とする。燃やした木や紙はもちろん貝殻も燃やして灰を土に還して新たな植物を育てる。シンプルながら手間暇かけて1日の営みを体験できるのがモリウミアスです。自ら「暮らす」または「生きる」時間をゆっくりと過ごすこと自体が体験。全てはつながっており、人は自然の循環を育み、より豊かにする役割であることを五感で感じる。自然と分断され、暮らしがとても便利に、簡単になっている現代。こどもにとってSDGsやサステナビリティといった言葉が当たり前になってきている時代だからこそ、自然の中でこうした時間を過ごすことはとても大事です。
そしてスペシャリストと呼んでいる住民をはじめとした大人も重要な存在。漁師を中心に農家や語り部、震災を乗り越えて逞しく生きる生き様はこども達の心にも響きます。また、自然の中で暮らすプロとしても豊かな学びをつくってくれます。世界中から集まるアーティストや料理人といったプロ、地元をはじめ全国から移住してきたスタッフも多様な学びを育んでいます。特にスタッフはこども達と上下関係ではないフラットな関係で学び合い、常に信じて待つ姿勢を大事にしています。これによりこども達からも家や学校以外で信頼する大人、田舎の親戚のように気にかけてくれている大人として継続的な人間関係も育まれます。そこに加わるのは鶏や豚といった動物。自然と人をつないでくれるだけでなく、まだ温かい生みたての卵をいただいたり、時には死に対面することで、「命」を感じ、ありがたさを痛感することにも。「生きることを実感した」、「命の大切さを感じた」といった感想が夏休みの1週間、こども達だけで滞在するLive in MORIUMIUSというプログラムから生まれるのはこうしたことの積み重ねがあるから。全国から集まる異年齢のこども達が1週間の共同生活を通じて自分で考え、行動する。大人に頼って解決してもらうのではなく、自分自身や関係するこども達で向き合い解決する。そんなわずか1週間でも彼ら彼女らの主体性は高まります。
古川柳蔵・佐藤哲著書の「90歳ヒヤリングのすすめ」では全国の高齢者に戦前にあった豊かな暮らしの価値観をヒヤリングしてまとめています。その価値観はモリウミアスでは「暮らしの得意技」として滞在するこども達に習得してもらっています。例えば「工夫する」、「直して使う」といったことをちょっと意識すると、行動が変わります。日常の中で繰り返し試すことが生活力の向上や暮らしを工夫することにつながります。こうした感覚や価値観は自然の中でこそ育まれやすい。国土の67%、2/3が森林と言われ、世界に誇る資源を持つ日本の自然にこども達を連れ出すことが大事。資源が減り、デジタルな世界がどんどん進化する時代を生きるこども達。里山・里海、穏やかで暮らしやすい自然環境を持つ日本の地方はどんどんと価値が高まり、かけがえのない場所となりつつあります。こども達やその次の時代を生きるこども達がサステナブルな未来を自分らしく描けるように、日々公園や神社・お寺といった身近な自然で、さらには里山・里海、山でこども達が遊び回る時間を大人が今まで以上につくってゆくことがこどもや家族、地域や国、さらには地球の未来にもつながってゆくと思います。