2022.06.16
こどもの成長に欠かせない自然のつながり(公益財団法人 MORIUMIUS 油井元太郎氏)
この季節は木が青々と茂り、その中をキラキラと輝く川が流れる美しい森。川底に足を入れたときの感触は今でも忘れません。思い返せば幼少期は親に連れられて関東や信越の山をよく登っていました。そんな自然の中で過ごした時間は鮮明に覚えているもので、自然の中にいると何か懐かしい感覚になりホッとします。先日、新緑溢れる山梨の森を歩いていると、沢にキラキラと光る石がありました。山梨にはまだ水晶があると噂で聞いたことはありましたが、嘘のように至る所に水晶が。大きいものは手のひらサイズのものまで。日本の自然の豊かさや身近さを改めて感じることができました。 こども達の成長に欠かせない自然とのつながりとその重要性を2回の連載に分けてお伝えしてゆきます。
私はMORIUMIUS(モリウミアス)という施設を宮城県の海沿いの町、雄勝町で運営しています。森と海から、こどもと町の明日をつくる。USは明日を皆なでつくるという意味です。2011年の東日本大震災直後に炊き出しで訪れた雄勝町。津波による被害がとても大きく、町の8割が壊滅したと言われ人口は1000人ほどになっています。しかしそこには森と海がつながる豊かな自然があり、はじめて訪れた時から災害による被害と自然の豊かさのギャップを感じていました。現在は三陸復興国立公園の一部でもある自然の中で、間も無く築100年になる木造校舎を5000人もの人と一緒に修復し、2015年からこども達が自然の中で循環を育み、共生することを体感する学び場を運営しています。
http://www.moriumius.jp
モリウミアスのある宮城県南部から青森県南部までの沿岸部は、小さな湾が入り組んだ、リアス式海岸となっています。教科書で覚えたことが懐かしい三陸特有の地形。森で育まれた豊かな水は湾に注ぎ込み、牡蠣やホヤ、刺身で食べられる銀鮭、そして県を代表するホタテが養殖される環境をつくります。馴染みのあるホタテ、大好きな牡蠣が育つ環境や育てる漁師を現地では肌で感じられます。普段口にする食材がどこで、だれによって育てられ、採られているのか。自然と分断されている都市部では感じることが難しい時代になっています。地球の温暖化やサステナビリティが問われてだいぶ経ちますが、個人でもアクションを迫られるようになりました。その答えは日々の「暮らし」にこそあると考えています。2017年にアメリカでベストセラーとなり、20年に和訳されたポール・ホーケンの名著「ドローダウン ー 地球温暖化を逆転させる100の方法」の私たちができることのランキング上位にはフードロスや菜食へのシフトといった日々の実践できるアクションがあります。最近は在宅で仕事をすることが定着して、おうち時間が長くなったからこそ、日々アクションを取りやすい。ご近所さんと一緒にアクションするなどできるのではないでしょうか?それは地球へのインパクトと同時に家族の時間を豊かにし、こどもの学び・成長にもつながります。
モリウミアスでは生ゴミは堆肥にして循環させています。堆肥をつくる場には鶏や豚が暮らしていて、その排泄物によってより良い堆肥になる。1年かけて微生物が分解し、熟成した堆肥は土に還して農業に活用。森で間伐した木材は燃やしてお湯を沸かしたり、暖房にも使っています。紙や段ボールも同様に熱源として燃やす。捨てるものは瓶やペットボトルくらい。
本来、人が集まるとそこにはエネルギーが集まる。そのエネルギーを循環させれば豊かな自然や食材が育まれる。こども達が人は自然から得るだけでなく、還すことでより良い自然環境を育めることを実感することが大事。家や学校での生活でもその価値観が当たり前のようになれば、逞しく生きることができるようになる。そして何より、自分らしい未来を描き、地域や地球のサステナビリティに向き合い、次の世代のこどもの為にも受け継いでいけると思います。テクノロジーが進化し、暮らしがどんどん便利になり、その反面自然資源は減ってゆく時代を生きるからこそ大切な価値観だと思います。 次回はこども達がモリウミアスでどのような体験から何を感じ取っているのかをお伝えしたいと思います。