2022年5月26日、「子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会」(外あそびを推進する会)ワーキンググループ(WG)は第二次政策提言策定に向けた議論の最終報告会をオンラインで開催しました。
第一次提言で掲げた、「人材の育成・確保」、「外あそび空間の整備」、「子どもおよび子どもを取り巻く大人の意識改革」の3つの柱に沿って立ち上げられた8つのWGは、2021年10月以来進めてきた議論をとりまとめ、その内容を各グループの座長・ファシリテーターが発表しました。
最初に、早稲田大学の前橋教授は、開会の挨拶として、園や学校、地域等、子どもに関わる場における外あそび推進のための要望を明確化することに努めてきた、と、WGの歩みを述べました。また、子どもたちが太陽のリズムに合わせた生活を送り、日中に戸外で陽光刺激を受けながらあそべるよう、子どもの外あそびの重要性や必要性、子どもの健全な育成理論について、行政や教育者を含む、多くの子どもに関わる人々に訴えていきたいと考えていると述べました。その中で、今後の子どもの健全な育成支援は、支援者の認識にずれがないように外あそび推進に係るすべてのステークホルダーが一致団結していくことが重要であると強調しました。
続いて8つのWGが、テーマごとの現状と課題、そして解決に向けた国や地方自治体への要望を発表しました。
以下、各WGの最終報告
WG1:包括的ガイドブックの作成
変化した生活環境を十分に考慮した外あそびの紹介や対応が求められていたり、指導者自身のあそび込み体験の少なさから外あそびの仕方を教えることができないなどの現状の課題を提示しながら、包括的ガイドブック作成の必要性について説明しました。今後の取り組みとして、国の指導者層をはじめ、すべての大人が子どもの外あそびを大切にしようとする共通認識を持つためにも、包括的ガイドブックを用いた人材育成や講習会を実施していくことが重要であると訴えました。
WG2:放課後の地域活動における外あそびを推進・サポートする人材確保
現状の課題として、外あそび機会が確保されるべき学童保育や児童館などの既存の放課後活動の場や、自治体が設置するプレーパークにおいて、外あそびを促すことができる人材が不足している状況があります。これに対して様々な自治体が提供する場が、身近で外あそびに適した環境として整備されると同時に、そこで、子どもたちが外あそびをしたいと自発的に思うようにその魅了を伝えられる人材を十分に配置することが望ましいと述べました。報告書には、外あそび人材に求められる能力や人材の採用、育成についても説明しています。その上で、解決策としての国の施策・制度への要望を短期目標および中長期目標に分けて提示しました。
WG3:デジタルデバイスの適度な利用と外あそびの重要性
デジタルデバイスの過度な利用がもたらす子どもの健全な成長への負の影響を外あそびが打ち消すことができるという海外の研究や調査の結果をまとめました。その対比をもとに、デバイス利用と合わせて、外あそびを奨励することの重要性について確認しました。また、世界各国のデバイス使用に対する施策、外あそびの義務化や奨励する施策についてもまとめました。しかしながら、本WGは、デバイスが生活に密着して活用されている現代では、その利用を避けることは極めて難しいことと考えてデジタルデバイスの使用と外あそびが対になり実践されることが重要であるとし、GIGAスクール構想において外あそびの奨励が明記されること、またテクノロジー企業による外あそびの重要性のメッセージの掲示を政府が奨励することを要望しました。
WG4:校庭開放利用の促進
全国の国公立小学校の校庭が子どもたちの自由なあそび場として活用されているケースが少ない現状を指摘し、校庭の自由開放が進んでいない理由として、見守り人材の確保の問題、地域スポーツクラブや地域住民利用との共存の問題、そして子どもがあそばないあるいはあそべない問題を挙げました。それに対する対策として、放課後事業の予算拡充に加えて地域のスポーツクラブによる利用と自由開放のバランスをとるための協議会の設置、そして国の補助金制度の整備を通じた民間参入の促進を要望しました。
WG5:園庭利用の促進
園庭開放の現状として、地域によって解放時間や頻度、設備、人材配備の状況に大きな差があることや、利用者のニーズに合った開放がされていないこと、そして園庭開放の情報が十分に告知されていないことが挙げられました。また、地域の未就園児の保護者が安心して利用できる公園が少ないことなどが課題として考えられました。そのために、幼稚園や保育所、認定こども園で実施される「園庭開放」が、外あそび推進に重要であるとし、また、子育ての場としても、園庭開放が積極的に行う必要性を訴えました。また、子育て支援事業の一環として園庭開放を必須化するための、政府および地域の子育て支援事業の予算拡充を求めました。
WG6:公園利用の促進
公園の9割を占める街区公園は、園庭や校庭以外で地域の最も身近で安全なあそび場であるものの、維持管理予算の低さや、多様化するニーズに応えられていない状況が課題となっています。そのために、街区公園の整備を要望しました。具体的には、予算拡充を通じた、公園の安全衛生管理の改善、インクルーシブなあそび場の整備、魅力的な公園づくり、そして公園の利用ルールの見直しを挙げました。
WG7:新たなあそびの環境整備
身近な地域におけるあそび場の空間の減少は、コミュニティの欠落とともに子どもと大人との分断をさらに加速させていることを課題と位置付けました。その上で、地域コミュニティを再形成するという視点から、園庭や校庭、公園に次ぐ新たな外あそび環境の構築が必要であることを訴えました。具体的には既に実行されている「コミュニティガーデン」および「みちあそび」の状況を紹介して地域全体でつながりながら、子どもの育成に励むことができる場を作ることを盛り込みました。
WG8:地域に根付いた意識改革(保護者・保育士・教育者、行政・地域住民)
保護者・保育士・教育者の意識改革と、行政・地域住民の意識改革に分かれてそれぞれ議論をしました。 共働き家庭が多い子育て世帯では子どもの生活が夜型化し、生活リズムが乱れている状況があることから、親が子どもの健全な成長に外あそびが重要であることを理解することが必要であるとし、その啓発の重要性を訴えました。また、保育者、教育者においても外あそびの重要性を理論として理解し園や学校において外あそびを実践していくことが重要であるとし、保育者、教育者が理論的に外あそびについて学べる講習会や研修の必要性を訴えました。
行政・地域住民の意識改革では、子ども達が安全で安心して外あそびができない大きな原因の一つとして、子どもと地域コミュニティの分断があるとし、外あそびの推進を通じて、地域住民と子どもの分断をなくし、子どもを見守りや育てるという意識を醸成することを目指すべきとしました。そのために具体的な施策として、基本法や基本計画に「外あそび推進」の重要性を明記すること、外あそび環境を積極的に整備する自治体への助成制度を設けること、そして地域コミュニケーションの軸となる新たなあそび場を創設することの3点を提言としてまとめました。
最後に、閉会の挨拶として本会の発起人であるジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ビジョンケア カンパニーの重松裕人氏は、政策の優先順位と照らし合わせ、短期に実現できるものと中・長期の実現を目指すもの考慮して要望を訴え続けていくことが重要であると述べました。
ワーキンググループメンバー(五十音順)
- 根っ子育てLink株式会社代表 阿部玲子
- 京都ノートルダム女子大学教授 石井浩子
- 小平市立小平第十二小学校主任教諭 板口真吾
- 前橋研究室 井上博隆議員
- 社会福祉法人心育会代表 鵜飼真理子
- 株式会社ジャクパ取締役 梶 真人
- 正雀ひかり園園長 國領美佐子
- 新渡戸文化短期大学准教授 小山玲子
- 法泉寺保育園園長 佐々木幸枝
- はたの保育園園長 笹間奈緒美
- えひめこどもの城園長 敷村一元
- 一般社団法人日本プレイワーク協会代表理事 嶋村仁志
- ローカルフードサイクリング株式会社代表取締役 平由以子
- 株式会社ジャクパ専務取締役 高島 勝
- NPO法人三重県生涯スポーツ協会理事長 竹田昌平
- 株式会社Deportare Partners代表 為末 大
- 和修会つるまち海の風こども園保育士 塚本亮太
- 谷口学園幼保連携型認定こども園文の里幼稚園副園長 野村卓哉
- NPO法人放課後NPOアフタースクール代表理事 平岩国泰
- 筑波大学准教授 平岡孝浩
- 玉成保育専門学校教員 廣瀬 団
- 新渡戸文化短期大学講師 藤田倫子
- 早稲田大学教授 前橋 明
- 植草学園短期大学こども未来学科教授 松原敬子
- MORIUMIUSフィールドディレクター 油井元太郎
- 株式会社ジャクエツ常務取締役 吉田 薫
- Glocal Government Relationz株式会社代表取締役 吉田雄人
- 和修会つるまち海の風こども園園長 若林仁子